IOWN 2.0の光電融合スイッチ、いよいよ出荷直前——AIデータセンターの電力危機を光で解く

2026年9月8日火曜日

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「AIが電気を食い過ぎて、もうデータセンターが建てられない」——2026年に入り、こんな話が現実味を帯びて語られるようになっています。NVIDIAの最新AIサーバー「NVL576」は1ラックあたり最大1.4MWもの電力を消費するとされており、世界中のハイパースケーラーが電力調達に頭を悩ませています。その解決策として、今まさに「光」が本番を迎えようとしています。NTTが提唱する「IOWN(アイオン)」の光電融合スイッチが、2026年第4四半期——つまりこれから数か月以内——に商用サンプルとして出荷される段階に来ているのです。この記事では、IOWNとは何か、光電融合スイッチが何を変えるのかを、できるだけ分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • NTTのIOWN 2.0「光電融合スイッチ」が2026年Q4に出荷予定——今まさに現実化の段階
  • スイッチ単体で消費電力50%削減・102.4Tbpsの大容量という性能の裏側
  • なぜ「処理チップと光モジュールの距離300mm」が問題なのか
  • ブロードコム・Accton・NTTの分業体制とサプライチェーン
  • NVIDIAも光電融合を採用し始めた——世界的な「銅から光へ」の潮流

IOWNとは何か:「電気→光」でインフラを作り直す構想

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、NTTが提唱する次世代の通信・情報処理基盤の構想です。一言で表すなら、「ネットワークからコンピューターの内部まで、電気ではなく光で信号を伝えることで、消費電力・速度・遅延のすべてを根本から改善しよう」というビジョンです。

IOWNは段階的に実装が進んでいます。

  • IOWN 1.0(2023年〜):APN(All-Photonics Network)として商用化。離れたデータセンター同士を光で接続し、2024年12月には最大800Gbpsの超高速回線「All-Photonics Connect」も開始しています。
  • IOWN 2.0(2026年〜):データセンター内のサーバーのボード(基板)間接続を光化する段階。今回の光電融合スイッチがこの中核製品です。
  • IOWN 3.0(将来):チップとチップの間まで光でつなぐ、さらに深い領域への展開を想定しています。

NTTが掲げる最終目標は、現在のネットワークと比べて電力効率100倍・伝送容量125倍・遅延時間200分の1を実現することです。

なぜ今、「銅から光へ」が急がれているのか

現在のサーバーは、プロセッサーやメモリ、GPUなど多くのチップが電気信号でつながっています。チップ同士や基板(ボード)間の通信に銅線を使う構造は長年の標準ですが、AIの普及とともに大きな問題が表面化してきました。

電力消費です。AIの学習・推論処理はデータの移動量が膨大で、チップ間を行き来する電気信号そのものがかなりの熱と電力を生み出します。NVIDIAが2025年後半に投入した最新世代のAIサーバーは1ラックで最大1.4MWとされており、既存の電力インフラでは対応しきれなくなっているのです。

💡 「1.4MW」はどのくらい?

一般的な家庭の消費電力は1か月で300〜400kWh程度とされています。1.4MWのサーバーラックは、1時間で一般家庭3〜4か月分以上の電力を消費する計算になります。これが何百ラックも並ぶデータセンターを想像すると、電力問題の深刻さが伝わるでしょうか。

光信号は電気信号よりも熱を生みにくく、長距離でも減衰しにくいという特性があります。「銅を光に置き換える」ことで、同じデータ量を伝えながら大幅に消費電力を減らせるというのが、光電融合技術の基本的な発想です。

「300mmの電気配線」という盲点:PEC-2が解決する問題

従来の光通信スイッチは、スイッチ本体に光通信モジュールを「挿し込む」形で構成されていました。この方式では、情報処理用のICチップと光モジュールの間が電気配線で約300mmほど接続されることになり、この区間での電力消費が積み重なっていました。

NTT IOWN 2.0のコアデバイス「PEC-2」は、情報処理チップと光エンジンを極めて近い距離に一体化させることで、この300mmの電気配線そのものをほぼなくします。

NTTの島田明社長はこの技術について、海外の技術系メディアでこのように述べています。

"IOWN's most important point is solving the social problem of power consumption."
(訳:IOWNの最大のポイントは、消費電力という社会問題を解決することにある)

この考え方が形になったのが、今秋出荷予定の光電融合スイッチです。スイッチ単体で消費電力を50%削減しながら、102.4Tbpsという大容量を実現するとされており、修理・交換が容易な「ソケット型」を採用しているのも特徴です。

誰が作るのか:分業体制とサプライチェーン

光電融合スイッチは、NTT単独ではなく複数の企業が役割を分担して製造します。

企業 担当領域
NTTイノベーティブデバイス(日本) 光エンジン・スイッチモジュールの設計・製造。1ラインあたり月5,000個の生産能力、少なくとも3ラインに拡張予定
Broadcom(米国) スイッチに内蔵するASIC(専用集積回路)の設計
Accton Technology(台湾) スイッチボックス(筐体)の設計・製造
新光電気工業(日本) 基板製造とCPOモジュールの組み立て

最初のターゲット顧客は海外のハイパースケーラー(Google・AWS・Microsoftなど大規模データセンター事業者)とされており、コストを最適化しながら国内展開も検討していくとしています。

NVIDIAも光電融合を採用:世界的な潮流になっている

IOWNの光電融合スイッチが注目される理由は、NTTの独自路線だからではありません。世界的に「銅から光へ」という流れが同時多発的に起きているためです。

2026年3月のGTC(NVIDIA主催の開発者イベント)では、NVIDIAが自社のスイッチング機器にCPO(Co-Packaged Optics)を採用することを正式に発表しました。CPOはPEC-2と同じ「処理チップと光を一体化する」アプローチです。住友電工・古河電工・フジクラといった日本の光ファイバーメーカーもNVIDIAのサプライチェーンに組み込まれる見込みとされており、日本の光部材メーカーへの需要が高まっています。

💬

NTTが先行してきた光電融合の技術的方向性を、NVIDIAが自社製品に採用して追ってきた——という見方もあります。2019年に構想発表されたIOWNが、6〜7年を経て「インフラの常識」になりつつある転換点に差し掛かっていると感じます。

私たちの生活とどうつながるのか

「データセンターのスイッチが変わっても、自分には関係ない」と思う方もいるかもしれません。しかし、AIサービスの応答速度・クラウドの料金・データセンターが受け入れられる地域かどうか、これらはすべてデータセンターのインフラ効率に左右されています。

  • AIサービスの応答がより速くなる可能性
  • データセンターの電力消費削減が、立地選定や電気代の抑制につながる
  • 👍住友電工・古河電工・フジクラなど国内の光部材メーカーへの波及効果

光電融合や半導体産業の構造についてさらに深く理解したい方は、半導体業界・産業構造の解説書籍で業界の全体像を学んでおくと、IOWNのような技術がどういった文脈の中にあるのかが把握しやすくなります。AIインフラの進化がどう生成AIのサービスに影響するかに興味がある方は、AI・生成AI入門書籍で基礎から理解を整理しておくのもおすすめです。

なお、本記事の内容は2026年9月時点で公表されている情報にもとづいています。商用出荷の時期・仕様・価格等は今後変更される可能性があるため、最新情報はNTTの公式発表でご確認ください。

まとめ

NTTのIOWN 2.0「光電融合スイッチ」は、2026年第4四半期に商用サンプルの出荷が予定されており、AIデータセンターの消費電力問題に対する現実的な解決策として動き始めています。処理チップと光エンジンを一体化することで電気配線の損失をなくし、消費電力50%削減と102.4Tbpsの大容量を同時に実現するという設計は、NVIDIAが同方向の技術採用を発表したことで、世界的な潮流として確認されつつあります。

2023年のAPN商用化から始まったIOWNは、IOWN 2.0でようやく「データセンターの内側」に手が届き始めました。IOWN 3.0でチップ間接続まで光化されれば、コンピューター自体のアーキテクチャが根底から変わる可能性もあります。今秋の商用出荷が、その長い旅の次の一歩になるかどうか、引き続き注目していきたいところです。

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